日本中医学会

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学術総会のご案内


第2回学術総会(2012年9月1日,2日)

学術総会リポート

【 全体のまとめ 】

第2回学術総会 会頭  関  隆志

 第2回日本中医学会学術総会は総合テーマ「伝統医学は医学のフロンティア―― 東アジア伝統医学の融合と発展の可能性」のもと,東京都江戸川区のタワーホール船堀にて,9月1日,2日の両日開催された。
 招待講演として,天津中医薬大学教授呉深涛先生に「糖尿病の中医学的治療」のご講義を,台湾の台北市中医師公会理事長の陳志芳先生に「台湾の中医事情」のご講義を頂いた。
 総合テーマに沿うと共に今後の日本中医学会,さらには日本の伝統医学の方向性を探る意味も込めて,3つのシンポジウムを企画した。酒谷薫・西本隆両座長のもとで「科学的エビデンスに基づいた伝統医学に向けて」,安井廣迪座長のもとで「漢方と中医学の架け橋――日本漢方の症例や治療法を中医学の目で解釈して,有効性や普遍性を抽出」,兵頭明・王曉明両座長のもとで「湯液(漢方)と鍼灸の理論の架け橋――湯液(漢方)の理論と鍼灸学理論の異同とそこから見えてくる新たな中医学の方向性」を開催した。伝統医学をそのままに活用するのみならず,科学的な評価を加え,医療の最先端に活かしていく。各国で独自に発展してきている湯液(漢方)を融合していく,湯液と鍼灸を融合させていく,これらは,日本のみならずグローバルな視点からも不可欠なチャレンジであろう。それが,日本中医学会の目指す一つの方向性であると考えた。
 また,酒谷薫理事長の強い勧めにより,関隆志が座長を務めシンポジウム「震災において伝統医学ができること――伝統医学を用いた医学・医療・介護の再生」を開催した。震災を振り返るのみならず,被災地におけるこれからの復興計画に伝統医学を活用するためのヒントを探った。このシンポジウムには,韓国韓医学研究所,中国中医科学院からチェ・スンフン先生と呉中朝先生をそれぞれお招きした。関の会頭講演では,「震災から未来へ 伝統医学の生きる街づくり」と題して伝統医学のコンセプトを活用して各種産業を連携させ住民を健康にする「みやぎヘルスケアシティ構想」とそこに誘致する「国立統合医療研究センター」について説明した。
 パネルディスカッション「日本に根付いてきた中医鍼灸――日本各地の中医鍼灸研究会の活動報告」では,浅川要・篠原昭二両座長の下,日本における中医鍼灸の実践の状況の報告をした。湯液のみならず,鍼灸治療もさまざまな異なる方法があり,その違いを認識して活用する道を探ることが,今後の鍼灸治療の発展において不可欠と考える。
 以上のように,今回は,中国伝統医学にとどまらず,東アジアの異なる伝統医学の融合と発展に寄与するための具体的な方策。現代の医学・医療のフロンティアをさらに前進させるシーズとしての伝統医学,それを活用するためのヒントを提示できたと考えている。



【 パネル・ディスカッション 】
 日本に根付いてきた中医鍼灸 ──日本各地の中医鍼灸研究会の活動報告

明治国際医療大学伝統鍼灸学教室 教授  篠原 昭二
東京中医鍼灸センター院長        浅川  要

 「日本に根付いてきた中医鍼灸」と題するパネルデイスカッションが第2回日本中医学会において企画・実施された。第1回大会では実技セッションに重きを置かれていたが,副題の「日本各地の中医鍼灸研究会の活動報告」と題する如く,中医鍼灸を学ぶ研究会が各地で活動している現状とその実態を明らかにすることも狙いの一つとしていた。その詳細は事前に実施されたアンケート調査結果にまとめられているが,主たる6団体からの回答を得た。
 その団体と当日ご報告頂いた先生は関西中医針灸研究会(藤井正道先生),百会会(川﨑徹先生),三旗塾(金子朝彦先生),浅川ゼミ(東京医療福祉専門学校鍼灸研究科)(西野裕一先生),愛媛中医研究会(越智富夫先生),九鍼研究会(小池俊治先生)である。それぞれ,8年から20年以上にわたる活動を展開されていることを明らかにされた。
 一方,座長からの質問として,中医鍼灸との出会い,本場中国で学んだ内容と現在行われている内容との違いはあるのかという問いかけには,非常に興味深い回答が寄せられた。あくまでも中国で学んだ内容を色濃く実践するという立場もあれば,患者の体質に応じた刺激量の変更や痛みを出来るだけ与えないような配慮をする等の臨機応変に応じるケースもあり,日本の伝統,文化や環境に合わせて応用することの重要性を強調する立場も見られた。
 また,中医鍼灸の特徴は弁証論治であるが,治療ではもっぱら穴性を考慮した選穴が主体を占めているようであった。この穴性については,中医科学院の主席研究員である黄龍祥氏が2007年11月号の『中国針灸』誌に『腧穴主治的規範化表述』と題する論文を掲載して,中薬の功能に対応する形の「腧穴功能」は理論的根拠が無いので,中薬のような「理・法・方・薬」といった弁証論治を形成するのは困難である。よって,古代人の直接的な表現方法を採用するべきとする警鐘的内容であった。他方,パネリストの多くが穴性の形式的運用とは異なり,弁証に基づき補瀉法を明確にして穴性を運用する李世珍氏の方法などを採用していることも明らかとなった。
 当初3時間にわたるパネルデイスカッションであるが,あっという間に時間切れとなり,各代表の先生には,言い足りない不満がくすぶる幕切れとなったに違いない。しかし,聴衆の側に立てば,それぞれの研究会が種々の工夫を凝らしながら,研究会活動を実践していることに対する驚きも大きかったように拝察される。
 最後に,テーマの中に「日本に根付いてきた中医鍼灸」というフレーズがあるが,医道の日本誌等の業態アンケートの結果では,中医鍼灸を標榜する臨床家はそれほど増えていない実態が明らかにされている。はり師きゅう師国家試験のためのテキストに中医理論が導入されて20年以上経過しているにもかかわらず,一向に中医鍼灸臨床家が激増しない理由はどこにあるのであろうか?結局,教育の中で中医理論が取り入れられているにも関わらず,臨床研修の現場での中医鍼灸の研修が適切に行われていないことが最大の理由である可能性があると思われる。
 今後,中医学会が国内における中医鍼灸を学ぶ人たちのための情報発信,ネットワークづくりと,受け皿となって研修する場を提供頂けることを願って止まない。
 甚だ言葉足らずのパネルデイスカッションの報告となったが,参加頂いたパネリストの先生方に対して深甚なる謝意を表するとともに,今後の中医学会の地道な学術活動の発展を心より祈りたい。



【 一般演題Ⅱのまとめ 】

一般演題Ⅱの座長  王  財源

 1. 高橋楊子 「舌診応用のための簡易方法の試み」
 2. 和泉健太郎「Manual鍼刺激が起立負荷時の自律神経調節機能に及ぼす影響」
 3. 福岡豊永 「がんの在宅医療における鍼灸治療の役割」
 4. 馬驥   「中医薬の教育情報化への試み」            以上

 先ず,第一席の高橋楊子先生の発表は,舌診の色彩,舌や苔の形状などの鑑別について,それらをより詳しく判断するための舌診シートの開発が必要であるという。高橋先生は開発のために約3000名に及ぶ患者の中から,病態と舌との関係が,より鮮明に映し出されたた画像から選別して採用されたとのこと,今後の中医診断のアイテムの一つとして教育現場での応用が期待されよう。
 第二席目の和泉健太郎先生の研究は,自律神経の正常反応者において,鍼刺激と偽鍼刺激の統計学的数値について,能動的起立負荷時の自律神経調節機能に及ぼす影響について調べたもので,大変に興味深いデータを拝聴した。他の研究に因れば,疼痛性疾患などには,座位などで交感神経を興奮させた状態で,鍼刺激を加えた方がより高い鎮痛効果が期待できるという論文もある。このような観点より,姿勢の変化が鍼刺激の効果を引き出すことは今後の継続研究に期待できるものである。とりわけ鍼の太さや細さ,刺入深度,刺激時間,刺激部位などの自律神経との関連は鍼灸を志す者にとっては大変関心の高い分野である。
第三席目の福岡豊永先生の発表は,今後,在宅におけるガン患者に対する鍼灸治療の可能性を示唆する内容であった。末期ガン患者への在宅医療を医師らとの連携のもとで,伝統医学が果たすべき役割を,福岡先生の扱うガン患者の症例を上げて,経時的に推移する具体的な症状の変化への対応は,鍼灸治療の効果を,今後,私たちが鍼灸を在宅医療で活用する上でも参考となろう。今後の継続研究に期待する。
 第四席目の馬驥先生は,インターネットを活用した中医薬学習E-learningの開発者である。現在,日本国内の教育システムは,元来,中国,台湾,韓国(医学部で必須教育を受け,法的に医師の身分を取得できる。WHOが中医学を承認)で行われている伝統医学教育の水準には達していないために,日本では中医学の学習および指導が充分に受けることができない。それらの難点を克服したものがE-learningであると馬先生は訴える。これらは自宅で気軽に学習できるメリットがあり,さらに中医学理論をより詳細に理解できるという利点があって,とくに初学者にとっては,今後,期待できるシステムの1つであろう。