日時:2011年11月10日
場所:南行徳駅前同社本部で
日本中医学会の学術総会実行委員の1人として献身的に活動する西野裕一氏を取材した。同氏は,中医学を謳って千葉県と東京で薬局,鍼灸院20店舗近くを展開するチェーン薬局「漢方誠心堂」の代表。中医学による意欲的な店舗活動を行っている。
――最近,大型のドラッグストアが目立つなかで,町の漢方相談薬局はかなり少なくなってきているかに見えます。そのような薬局経営が困難になっているなかで,西野さんの誠心堂薬局は急速に店舗展開を強められていますね。しかも,中医学というマイナーな学問を標榜されているわけですが,経営は相当難しいのではないかと思われるのですが,どのような努力をされているのですか。
西野:当社は今年で設立24年目になりますが,1993年に中国へ研修に行ってから,中医学を業務の柱に据えて活動をしてまいりました。おかげで現在地域住民の支持をえて,千葉県と東京を中心に薬局を10カ所,鍼灸院を5カ所,薬針併設店を2カ所,都合17カ所開設しています。ほかに太極拳や中医美容などのカルチュアー教室も開設しています。薬剤師が56名,鍼灸師が10名,中医アドバイザー(中国人中医師)が20名,その他合わせて110名以上になります。
当社は,あくまでも中医学の弁証論治にもとづいて患者の病気の悩みに応えています。中医学は,養生から難しい疾病まで幅広い分野にまたがって方法論をもっており,患者のどんな悩みにも応えられるポテンシャルがあります。中医学は理論体系がしっかりしていて,再現性に富んでいるため,だれがやっても同じ効果を出すことができます。また,名人でなくても患者の悩みに対応することができます。素晴らしい医学だと思います。
当社は,この中医学を学び,これを患者に提供することでなりたっています。べつに漢方ブームに乗って,見栄えのよいバラエティショップのような方向は目指していません。あくまでも中医による漢方相談で勝負をして,業績を上げています。
―――次々と支店を開設されていますね。各支店で業績を上げて行くには,それぞれの店の責任者は,相当高いレベルの力量を求められると思いますが,貴社ではどのような社員教育をされていますか。
西野:以前に,あるドクターがこんな症状の患者にはどんな方剤を投与したらよいか,と質問されてきました。私が例えば加味逍遥散がよいのではないですか,と答えると,以降同じような症状の患者には一律に加味逍遥散を出しているようです。そのうちに,同じ症状の患者でも,どのような患者はこの方剤が適応して,どのような患者は適応しないかがわかってきて,加味逍遥散の使い方を次第に覚えてゆくというやり方をされています。薬剤師もたくさんの方剤を一気に覚えるのでなく,1つの方剤を使い込んで深く学習し,たくさんの経験を積んでゆけば力がついてきます。1つの方剤,1つの疾患から始めて経験を積み上げてゆくのがよいでしょう。当社では,社内研修もやっていますし,中国人中医師によるアドバイスもあり,また中国へもたびたび行って研修をしてきます。したがって,各人の専門知識も高いし,専門性をつけていっています。
当社の教育は,このような治療能力を向上させるとともに,なにより,患者に向き合う薬剤師,鍼灸師としての人格教育を重視しています。われわれの相談業務は,ベッドに上がってから始まるのではなく,患者が店に入ってきたときから始まります。そして,治療を終えて帰られたあとのアフターケアを含めて,全過程を通じて患者と接する仕事であると教えています。入ってこられたときには,清潔な薬局だな,スタッフがテキパキと動き,明るい雰囲気だなと好感してもらえる店作りを心がけています。
とにかく,患者の受けた満足度を上げる,店の信用度を上げることを第1のモットーとしています。地域から必要とされる店作り,地域に貢献できる店作りです。売上は,地域からの「通信簿」といえます。
―――最近,地域にも漢方薬を出す医師が増えてきています。医師が出す漢方薬は保険がきくので治療費が安い。そういう環境のなかで,患者を漢方薬局へ導くのは容易ではないと思われますが,いかがですか。
西野:ドクターが漢方を使ってくださるのは,大いに結構なことですが,保健医療の枠内で漢方をやるのは,大変だと思います。3分診療で1人1人の患者の病態に応じて弁証論治をし,薬を選択するのは容易ではありません。わたしどもは,漢方を出す医師を怖いと思ったことがありません。
当社では,1時間をかけてじっくりと患者に向き合い,全人的医療を心がけています。患者のセルフメディケーションを助けるわけです。患者の願いに沿う形でともに治療に参加しています。患者が払うお金は,それに対する対価です。つまり,当社への満足度を示しています。当社の費用はドクターに比べてずいぶん高いですが,それでも患者は来てくれます。患者を大切にし,患者に寄り添った治療だからこその結果だと思っています。
―――西野さんは,日本中医学会の実行委員の1人として活躍していただいていますが,この学会に対して何を期待しますか。
西野:薬剤師ではありますが,日常の薬局業務のなかでたくさんの臨床経験が生まれます。自分でも驚くような治療効果が生まれることもあります。そういう経験をぜひ同業の人々と共有できる場を,学会が提供してくれるとありがたいです。たとえば,学術総会ではポスター発表ができるといいですね。そういう場があるとたくさんの症例が集まると思いますよ。ドクターと組んで中医学的な説明にエビデンスを加えてゆければよいですね。
それと,当社では鍼灸と漢方の併用治療の施設を設けています。中国へ行っても,鍼灸と漢方の併用治療はあまりやられていませんが,これは大事だと認識しています。併用すれば,この薬は要らないのではないか,というようなこともあります。
最後に,学会では薬剤師が主体的に討論できる部会があればありがたいと思います。
(文責:山本勝司)