新型コロナウイルス感染症について、北京留学生からの報告
北京中医薬大学博士課程 崔衣林
■新型コロナウイルスの現状と大学の対応
こんにちは。北京中医薬大学の崔衣林です。まず、この度、新型コロナウイルス感染症で犠牲になられた方へのご冥福をお祈り申し上げますとともに、現在治療中の方々の1日も早い回復をお祈り申し上げます。
新型コロナウイルスについて、日本でも連日大変なニュースになっているとお伺いしました。日本の皆様より、現在中国北京に滞在中の私を心配し、ご連絡くださいました。特に日本中医学会理事でいらっしゃる瀬尾先生をはじめ、多くの先生方よりお電話やメールをいただきました。心より感謝申し上げます。
早速、北京中医薬大学の今の様子を実況中継いたします。私は中国に来て10年になりますが、かつてないほどの一大事となっており、中国人からしても「こんな異常事態は今までにない」と言っているくらいなのです。
新型コロナウイルスの感染が公となった1月末は、中国の春節休みであり、留学生たちは1月初旬の期末テストを終え、1月中旬には冬休みとなり、帰国しておりました。その後、感染が悪化するにつれ大学は、国外帰省中の留学生へ中国への渡航を禁止し、中国国内の留学生には外出禁止としました。そして、クラスごとに湖北省への渡航歴、現在所在地の確認、毎日の体温測定、大学校内へ進入制限、大学校門での体温測定と学生証の確認、マスク無しでの外出入校禁止など、管理が一層厳しくなりました。
2月中旬より始まる予定であった新学期は無期限延期となり、中国政府からは「停课不停教,停课不停学!」(新学期が始まらなくても教学は止めない、新学期が始まらなくても学習は止めない!)をスローガンに、新学期は各校にてオンライン教育を行う方針が発表されました。各校では、開校史上初のオンライン授業の実施に向け、現在各部門において毎日のようにオンライン会議が行われ、準備に追われています。
病院実習や実技、実験、体育の授業についても、当面禁止されおり、通常科目同様にオンライン教育が導入され、動画を通して学び、動画を通して自宅で学ぶ学生を先生が確認し、指導や合否の判定を行います。
論文を書いている修士、博士生には、自宅でも研究を進められるよう、学内のみ使用できる論文検索ダウンロードサイトを公開し、研究生たちが国内外どこにいても論文を書ける環境となりました。指導教官とも定期的にオンライン動画会議を行い、常に指導を受けられる状態となっております。
■中国各地の日本人留学生はオンラインで会議
私が設立した「全中国中医薬大学日本人会」では、北京、天津、上海、広州、南京、遼寧、成都、湖南など各地の日本人留学生がオンラインで集まり、毎日のように中国各地の様子や日中両国のニュースを集め、正しい認識と、現状把握を行っております。多くの日本人留学生は冬休みで日本に帰っていますが、私を含め4名は中国にて自宅待機しております。感染者はおらず、皆さん安全を確保できております。
■禍転じて福と成す
中国では、今回新型コロナウイルスが流行し、以前からも中国経済は崩壊すると言われているのに、中国で生活してて大丈夫? とよく聞かれます。今回の「非常事態対策」をきっかけに、大規模的なオンライン会議や教育の導入、衛生面での意識改革、無駄の解消、贅沢を控えるなどが行われ、今後国民の意識や社会が一気に変わります。ITやAIを国家戦略としている中国は、今回のオンライン教育や会議を、今後更に根付かせ、発展させていくことでしょう。特に医療分野においては、医療費の増加や病院に人が溢れるなど社会問題となっている中、今回は人との接触を避け感染を防ぐため、「オンライン発熱診療科アプリ」、「オンライン診療+宅配便での薬の配達」が普及し、新型コロナウイルスの拡大を防いでいるだけでなく、ネットショッピングに次ぐ更なる発展、そして更に便利な社会が作られていきます。
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そんな近未来が予想されますが、新型コロナウイルス患者は今なお増加中で、2月中旬から後半がピークと言われております。現在はまだまだ気は抜けず、人混みを避け、手洗いや消毒、マスクの着用に注意していく必要があります。日本の皆様もお身体には十分お気を付けください。暖かくなる春には落ち着き、大学も通常通り運営されると予想されます。政府やメディアでは、注意を呼び掛けるとともに、もう少し踏ん張ろう! と国民を励ましております。「非常事態」に街の至るところでお互い励まし合う声は、心に奥まで響きます。
武汉加油!中国加油!日本加油!
■中医学も活躍している
新型コロナウイルスについて、西洋医学では未だ特異的な治療法がない中、私たちが専門とする中医学が活躍しております。先日、中華人民共和国国家衛生健康委員会(日本でいう厚生労働省)より発表された「新型コロナウイルス診療マニュアル」には中医学の内容も含まれました。その内容については天津中医薬大学張伯礼校長が主体となり、作成されました。張校長はこの短期間に「新型コロナウイルス中医診療手帳」という書籍を出版し、効果のある中医療法をより多くの方が実践できるよう、デジタル化し無料公開しました。
張校長は、中医学は全身を調整することで自己免疫力を高め、症状を改善し、QOLを高めると述べ、中医学と西洋医学のメリットを活かした「中西結合医療」を推進しております。特に発熱、吐き気、便秘などの症状改善、病状悪化の防止、心肺腎機能を保護するなど大きな役割を果たしています。今回、張校長らが国家に提出した内容は張校長らが直接武漢の現地に向かい、100例以上の患者を診てまとめたものです。そして、天津中医薬大学には中薬国家重点実験室があり、抗ウイルス作用のある漢方薬の研究と製品化を進めております。
■各種診療マニュアルからまとめ
中華人民共和国国家衛生健康委員会より:新型コロナウイルス伝染病は中医学では「疫病」の範疇に属し、病因は「感受疫癘之気」であり、現地の気候や、体質の違いなどに合わせ弁証論治する必要があります。
以下、各組織が公開している診療マニュアルからまとめましたので、ご紹介させていただきます。
分類 | 症状 | 治療 | |
医学的観察期 | 臨床所見① | 疲労感、胃腸症状 | 金花清感顆粒 連花清瘟顆粒 疏風解毒顆粒 防風通聖散 |
臨床所見② | 疲労感、発熱 | 蒼朮15g,陳皮10g,厚朴10g,藿香10g,草果6g,生麻黃6g,羌活10g,生姜10g,檳榔10g | |
臨床治療期 | 初期: 寒湿鬱肺 |
悪寒発熱あるいは無熱、乾咳、口渇、倦怠感、胸悶、脘痞、嘔気、下痢。舌淡または淡紅、苔白膩、脈濡。 | 蒼朮15g,陳皮10g,厚朴10g,藿香10g,草果6g,生麻黃6g,羌活10g,生姜10g,檳榔10g |
中期: 疫毒閉肺 |
身熱不退あるいは寒熱往来、咳嗽、痰少あるいは黄痰、腹張便秘。胸悶気促、喘息、体動時気喘、舌紅、苔黄膩あるいは黄燥、脈滑数。 | 杏仁10g,生石膏30g,瓜蒌30g,生大黄6g,麻黄6g,葶藶子10g,桃仁10g,草果6g,槟榔10g,蒼术10g | |
重症期: 内閉外脱 |
呼吸困難、易頻呼吸あるいは補助換気適応、神昏を伴う、煩躁、発汗にして手足冷い。舌紫暗、苔厚膩あるいは燥、脈浮大無根。 | 人参15g,附子10g,山茱萸15g | |
回復期: 肺脾気虚 |
息切れ、倦怠感、食欲不振嘔気、痞満、大便無力、軟便、舌淡胖、苔白膩。 | 半夏9g,陈皮10g,党参15g,黄芪30g,茯苓15g,藿香10g,砂仁6g |
中国鍼灸学会より:
効果 | 穴位 | 方法 | 頻度 |
免疫力向上 | 足三里、気海、中脘 | 艾灸 | 午後1回 |
症状改善と安神 | 合谷、太衝、足三里、神闕 | 艾灸 | 午前午後各1回 |
補肺脾気 | 大椎、肺兪、膈兪、足三里、孔最 | 艾灸 | 毎日1回 |
中国中医科学院鍼灸研究所より:
1艾灸療法
弁証 | 症状 | 選穴 | 操作法 |
補気温陽 | 症状なし、感染者と接触 | 関元、命門、足三里 | 按摩、艾灸 |
宣肺理気 | 咳嗽、気喘、胸詰まり | 合谷、尺澤 | 拍打法 |
補肺化痰 | 軽症、回復期、痰がある | 肺俞、膏肓俞 | 艾灸、掌で叩く |
調理脾胃 | 軽症、腹脹、便秘、下痢、食欲不振 | 中脘、神闕、天樞、足三裏 | 腹部は按揉法 足三里は按法 |
温陽散寒 | 軽症、冷え性、倦怠感 | 大椎、命門、関元 | 艾灸 |
※艾灸は一度に3-5穴、毎穴10-20分、毎日もしくは2日に一度行う。
2耳ツボ療法
治療法 | 操作法 |
蛟龍搗海 | 両手の中指を耳甲腔に合わせ、ゆっくり呼吸しながら回していく。右と左周り各8回ずつ行う。 |
天池蕩舟 | 食指を耳甲艇に合わせ、下から上へ按摩する。前半は息を吸い、後半は息を吐く。8回行う。 |
喜鵲點頭 | 拇指と食指で前後から神門を按揉する。耳屏內側の皮質下と外側の枕部を按揉する。食欲不振には胃を加える。各1分ずつ、一日3回ずつ行う。両耳同時に行う。 |
北京中医薬大学より:
1.薬膳
①山薬とヨクイニンのお粥:山薬、ヨクイニン適量。
②大根茶:白大根100g、氷砂糖15gを煮てお茶替わりに飲む。
2.鍛錬
①過労や夜更かしは避ける。
②適度な運動:五禽戲、八段錦
3.予防の漢方薬(谷曉紅教授提供)
①成人:
生黄芪9g 金銀花9g 連翹9g 藿香6g
蒼術6g 厚朴6g 陳皮6g 茯苓9g
桔梗6g 蘆根15g
水煎服,1日1剤,朝夕2回服用
②青年、児童:
藿香3g 萊菔子6g 陳皮3g 茯苓6g
桔梗3g 金銀花6g 連翹6g 蘆根9g
玄参6g
水煎服,1日1剤,朝夕2回服用
4.香り袋:
艾葉12g、丁香6g、白芷9g、薄荷6g
石菖蒲9g、郁金9g,薬料を粉末にし、携帯するか部屋に掛ける。
5.家庭環境(姜良鐸教授提供)
①お灸を点火し、空気を消毒する。
②白醋もしくは醋で艾葉を煮て、その蒸気で部屋を消毒する。
以上、新型コロナウイルスの予防と治療法でした。天津中医薬大学張校長率いる中国中医学は、中西結合医学を推進し、エビデンスに基づいた中医学を世界へ普及させ、より多くの方のためになることを目標としております。私は、そんな張校長の話を聞くたびに中医学の希望が広がり、可能性を確信することができ、一言一言が大きなパワーがあり、引っ張ってくれる気がします。日本の皆さんにも臨床家として、ぜひ張校長の話から、パワーをもらっていただきたい思いです。
中医学加油!日本加油!大家加油!