北京中医薬大学鍼灸推拿学部卒業生・北京知行堂 秋山陽子
自己紹介:2016年に北京中医薬大学鍼灸推拿学部を卒業。17年に中医師国家資格を取得。その後、大学付属東直門病院にて婦人科疾患の中西医結合治療を学ぶ。19年に北京中医薬大学修士課程修了。現在、北京知行堂にて中医師として勤務。在学中より中医学を基礎理論とした食事療法に興味を持ち、特に産後女性の母乳不足に着目している。
今回は、「産後母乳不足の中医食事療法」について簡単なまとめを、ご紹介させていただきたいと思います。私は中国で生活をしている間に、多くの女性が産後の食事にとても気をつけていることを知りました。よく目にする産後女性の食事は、栄養面のバランスを考えた上に中医学の理論を取りいれて作られ、産後の体力回復や産後病予防のための食事、母乳の出を良くする食事などがあります。そのなかでも、特に乳房の健康は、多くの女性が関心を持つテーマです。“薬食同源”“医食同源”という言葉がありますように、食事療法からより安全な産後女性の治療につながるヒントはないかと興味を持ち、産後の母乳不足に関する文献及び産婦人科病院などで行われた臨床研究の論文に記載された処方などを調べ、本文をもって産後母乳不足の中医食事療法について考察しました。
①文献整理:中医食事療法に関連する書籍85冊から、母乳不足を改善すると明記された513処方を選出。
②分析:選出した食事処方を分類し整理しました。
結果は以下の6つがあげられます。
①中医学理論に基づき、産後母乳不足の分類は、以下の6型に分けられる。
- 気血虚弱型: 母乳が足りない又は全く出ない、母乳の濃度が薄い、乳房が柔らかい、乳房の張りがない、母乳がもれる。顔色が黄色っぽい又はツヤがない、疲れやすい、体がだるい、元気がない、話す気力がない、動悸、不眠、食欲不振、下痢、悪露が出る、悪露の量が多い。舌質淡或いは淡胖、舌苔薄白、脈細弱。
- 肝鬱気滞型:母乳が出にくい、量が足りない、乳房が張って痛い、乳房に触れるとかたまりがある、憂鬱な気分になる、楽しさを感じない、怒りやすい、口の中が苦い、ため息をよくつく、わき腹の辺りが張る、食欲不振、関節の動きが滑らかではない、げっぷがでる。舌質暗紅又は舌先の両側が赤い、苔薄白又は薄黄、脈弦細又は弦数。
- 血瘀阻滞型:母乳が足りない又は全く出ない、乳房は柔らかい又は押すとかたまりがあって痛い、下腹部に痛み又は圧痛がある、悪露の残留が出ない又は悪露が止まらない、悪露が紫色でかたまりがある、顔色は蒼白又は暗く青っぽくくすみがある。舌質暗い紫、又は瘀斑あり、脈沈緊又は弦渋。
- 痰阻乳絡型:母乳が足りない又は出にくい又は全く出ない、産婦の体型は肥満又は正常、乳房が大きい、乳房が柔らかい、乳房に張りがない、胸が苦しい、吐き気がする、食欲不振、下痢又は粘りのある便。舌質胖大、歯痕あり、苔白膩、脈弦滑。
- 実熱壅盛型:母乳が出にくい、乳房が張って痛い、皮膚の色は正常又は赤く腫れる、乳房に触れると熱がある、かたまりに触れる又は触れない、食欲不振、寒がりで発熱もある、舌紅、苔薄黄又は薄白又は黄膩、脈滑数又は浮数。
- 先天無乳型:先天的な乳房発育不全、乳房の畸形など。この型は産後母乳不足に対する弁証治療効果なし。
②中医食事療法では、補虚を最も重視し、全体の22.58%を補虚食材·生薬(黄耆、大棗、粳米、豚肉、鶏肉、白朮、当帰、熟地黄、竜眼肉、黒ゴマ、クコの実など)が占めた。症状に合わせて活血化瘀食材·生薬(酒、王不留行、穿山甲、川芎、郁金、红花、桃仁など)、理気食材·生薬(陳皮、青皮、佛手、橘葉、玫瑰花、橘核など)、清熱食材·生薬(漏芦、天花粉、赤芍、蒲公英、生地黄など)、解表食材·生薬(生姜、葱白、白芷、桂枝、葛根、紫苏など)等を使用する。
③使用する材料の性味は、平性/甘味薬が最も多く、続いて温性/甘味薬、温性/辛味薬となる。
④使用する材料の帰経は、胃経絡が最も多く、続いて脾、肝、肺、腎、心経絡となる。
⑤使用回数が多い材料は、生姜、葱、豚足、酒、粳米、黄耆、当帰、豚肉、鮒、紅糖、大棗、鶏卵、落花生、エビ等。
⑥調理法は、スープ、おかず、粥が最も多い。
産後の女性は、出産の過程で体力と血を消耗し、気血が不足しています。処方は、補虚をベースに症状に合わせて活血作用や理気作用のある食材或いは生薬を用います。胃、脾、肝経絡に入る食材の使用率が高いのは、これらの経絡が乳房との関係が深いからと考えます。スープやお粥は母乳の原料となる水分が多い調理法であり、消化機能が落ちている回復期の産後女性にとって、栄養と水分を摂取するのに効率的な調理方法だと言えます。