日本中医薬学会

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週刊「中国からの留学生便り<福田雅美>」第一話を掲載

2018.12.29 カテゴリー:中国からの留学生便り

第一話 北京中医薬大学を経て北京大学へ

北京大学修士課程2年 福田雅美


 はじめまして、北京大学医学部修士課程2年生の福田雅美と申します。私は2012年9月に北京中医薬大学に入学し中医学を専攻しておりました。2017年7月に卒業し、現在は北京大学第六病院(精神衛生研究所)で老年精神医学を専攻しており、認知症のなかでも主にアルツハイマー病について研究しております。

 現在、超高齢社会の日本と、それを上回る猛スピードで高齢化が進む中国において、高齢者に対する医療の問題は避けて通れない道です。そして認知症による社会問題も多く出現しております。本科生の時に病院実習で年配の方々と触れ合う機会がたくさんあり、社会の高齢化問題を肌で感じることができました。特に認知症患者の家族との交流で、本人だけでなく周りへの負担も非常に大きいことを知り、認知症についてより深く知りたいと思ったのが専攻を決めたきっかけでした。この分野について専門的に学びたいと調べていると北京大学第六病院で老年精神医学専門の修士課程を募集していると知り、すぐに応募しました。中医薬大学では学べない精神医学について学ぶことができ、入学してからの授業や外来の患者とのふれあいはとても新鮮でした。例えば、単純なうつ病にしても、授業で理論や治療法、患者さんとの接し方について学び、外来で実際に患者さんから話を聞くことで、理解が深まり、理論と臨床を結び付けることができました。

 私が通う北京大学は1898年に設立された中国初の国立総合大学で、中国国内では1位2位を争うレベルなだけに、中国全土から非常に優秀な人材が集まってきます。そして世界著名大学ランキング(Academic Ranking of World Universities)72位と世界的にも非常に有名です。研究室の教授からは普段の厳しい指導をしていただけるだけでなく、中国国内や世界各地で開催される学会で勉強する機会も与えてくれます。

 北京大学第六病院は精神科の専門病院であり、中国国内の精神医学ランキングでは何年も連続で1位になっている病院です。病院で中医学と触れ合う機会は減りましたが、患者さんへの退院後の注意事項には中医学での指導項目があり、私はそれを見るたびに中医学が生活に密着していると感じるとともに、中国では西洋病院でも少なからず中医学を取り入れているんだなと思いました。

 ここ数年、北京大学医学部では日本人留学生も増え始めました。医学部を卒業後1年間のインターンを経て中国の医師国家試験を受験し、合格すれば日本で医師国家試験を受験することができます。以前は予備試験が大変難しく、合格者は非常に少なかったのですが、2007年より北京大学医学部は5年制から6年制へと変わったことで予備試験が免除されるようになり、日本医師国家試験に合格する卒業生も出てきました。その影響もあり、現在では100名近くの日本人留学生が在籍しております。

 大学生活も非常に楽しく送っています。先日迎えた12月22日の冬至は、一年のなかで白昼の時間が一番短くなり、一番寒い日と言われています。中医学では陰が極まり、陽気が生まれる日と言われ、北京を含める中国北部では餃子を食べる習慣があります。この習慣は中医学の“医聖”である張仲景から始まったと言い伝えられています。張仲景は、寒い時期に農民たちが服もまともに着られず、凍え、耳が凍傷になっているのを見て、農民たちに羊肉や祛寒薬を入れた餃子を食べさせ、体の中から暖めるように勧めました。張仲景はこの餃子を「祛寒嬌耳湯」と名付け、処方を各薬局に配り、世間に広め、庶民たちを助けたと言われています。「祛寒嬌耳湯」とは羊肉と祛寒薬を煮て、煮あがったら皮で包み、また茹でることで出来上がります。形が耳のようで、耳の凍傷を改善できることから冬至には餃子を食べるという習慣が根付き今に至ります。この日は私も友人らと大学の食堂で餃子を食べることができました。今年も一年寒邪に負けませんようにと、祈願しておいしくいただきました。

 そんな仲の良い友人や世界トップレベルの教授らの指導を受けながら、とても良い環境に恵まれていると感じる毎日です。特に中医学の最高峰である北京中医薬大学で中医学を学び、西洋医学の最高峰である北京大学で西洋医学を学ぶことで、中西両医学からアプローチを可能にし、専門性をより高めることができると思っております。将来は日本と中国の医学の架け橋になり、超高齢社会の日中両国において老年精神医学分野の交流を深め、社会貢献できるよう頑張っていきたいです。機会があれば、ぜひ北京大学や精神衛生研究所に来てください。


第一話 了

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