日本中医薬学会

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「中国からの留学生便り<岡田麻沙里>」を掲載

2019.04.13 カテゴリー:中国からの留学生便り

北京中医薬大学 中医本科卒 岡田麻沙里


 皆様、初めまして。2014年に北京中医薬大学、中医本科を卒業した岡田麻沙里と申します。

 この度は「中国からの留学生便り」を執筆するというような機会を頂き、大変感謝しております。今回は、まず自己紹介と、留学時代の話、また、現職、ラッフルズメディカルグループの中医科の紹介をさせて頂きます。

■自己紹介

 出身は大阪で、中学まで大阪で過ごし、高校はオーストラリアのゴールドコーストにて3年間、現地の高校に通いました。高校留学前は精神科医になるのが夢だったのですが、毎日オーストラリアの大自然に囲まれているうちに、自然ととても幸せな気持ちになり、環境が変われば自然と健康で元気になると、中医学の唱える「三体合一」を身に染みて体験することができました。そこで、高校を卒業したらホリスティック医学を学びたいと思い、中国人の友人に相談すると、それだったら中国で中国医学を勉強したらどうかと勧められ、どんどん中国文化と中国医学に興味を持ち始めました。「西医治病、中医治人」の思想も、身体、心、精神の全てを総体的に治療するという考えが、もともとメンタルヘルスに興味のあった私にしっくりときました。

 また、当時高校で第二外国語として中国語を学んでいたので(私のいたクィーンズランドの高校では、日本語、中国語、フランス語が第二外国語として選べました)、中国に行って本場で中国語を学ぶのも良いかもしれない、住み慣れたオーストラリアを離れて、全く知らない、言葉も分からない国でまた一から挑戦するのも良いかもしれないと思い、高校卒業後、中医を学ぶ為に2007年3月に北京へと飛び立ちました。

■留学時代の話

 中医学は伝統中国哲学が重要な基本となるので、その概念と思想を本格的に学ぶには文献も原本の中国語で読み、意味だけでなく中国文化に基づいた感覚で深く理解することがとても大切です。たとえば中医学を学ぶ上で欠かせない易経や黄帝内経には、「一陰一陽之謂道」や「陰平陽秘、精神乃治」など、短文の中に深い宇宙が存在していて、その感覚を得るには経験と鍛錬が必要となります。ですから本場の中国に留学して本当に良かったと思っています。

 また、病院研修においては一人の医師が1日に100人以上診察していて、中国の人口の多さに改めて驚くと同時に、現地の医療現場を目のあたりにし唖然としました。日本で普通だと思っている常識が中国ではひっくり返され、ごった返しになっている医療現場でも一人ひとり丁寧に親身になって患者様の話を聴いて対応している医師もいて、とても心を打たれました。

 2019年現在では、日本に行ったことのある中国人の方も多く、親日の方も増えてきましたが、私が北京に来たばかりの2007年はまだあまり海外の情報も入ってきていない頃でした。そんな中、リハビリ科で研修していた時に、ある年配の患者の方が、私が留学生だと知ってどこから来たのかと尋ねてきたことがありました。少し悩んだけれど日本から来たと伝えると、とても喜んで「そんなに遠くから、中医学を学ぶ為に北京に来てくれたのか、そして、私たちを助ける為に来てくれたのか、よく来てくれた! とても嬉しいよ!」と言ってくださいました。その時に心の底から北京に来て良かったと思いました。その方は歩くことができず、足の筋肉を鍛える為のリハビリをしていたのですが、いつも笑顔で、「きいてくれる? 昨日、歩く夢をみたんだよ! とても嬉しかったんだ!」とニコニコと医師や他の患者の方と話をしていて、逆に研修生の私の方が勇気と元気をもらいました。その方のお蔭で、生涯医療に携わって、沢山の人を助けられるようになりたいと心から思うようになりました。

■現職、ラッフルズメディカルにて

 北京中医薬大学を卒業し、現在は北京にて「ラッフルズメディカルグループ」のマーケティングをさせて頂いております。

 マーケティング日本部では主に、在中国の日系企業、日本大使館、日本人学校の窓口や、日本商会、日本倶楽部のイベント参加、健康セミナーの企画、ウェブサイトや広告の作成、プロダクト開発などをしています。

■ラッフルズメディカル北京クリニック

 「ラッフルズメディカルグループ」は1976年にシンガポールで2軒の診療所から始まり、現在ではアジア14都市にて100以上の医療機関を展開しています。日本では大阪にクリニックがあり、中国では8都市で総合病院とクリニックを運営しています。
 総合病院はどれもガラス張りで、自然光が沢山入るデザインになっており、ラッフルズメディカルの創立者は「患者様の心が少しでも明るく、軽くなるように、病院っぽくない病院をつくり続けたい」「次世代までも続く、皆様の健康のための、信頼できるパートナーでありたい」と言っています。

■シンガポールと北京の違い

 ラッフルズメディカルの中医科は、シンガポールでは総合病院とクリニックに、中国では北京、上海、天津、南京、香港のクリニック、そして重慶総合病院にあります。

シンガポール総合病院
重慶総合病院
上海総合病院

 本社のあるシンガポールは、ほぼ赤道直下に位置し、四季のない熱帯性モンスーン気候です。年間の平均気温は26~27度と高温多湿で、11〜2月が雨季、3〜10月が乾季となります。そのため、シンガポールの中医科では皮膚疾患でお悩みの患者様、特に湿疹や乾癬の治療で来院される方が多いです。また、シンガポールの女性は学歴重視、キャリア志向の方が多く、晩婚化も進んでいるため、IVF、不妊治療の患者様も多いです。他には、シンガポールでは2年間の徴兵制度があり、身体を鍛えることやスポーツが好きな方が多いので、首、背中、肩のスポーツ外傷や疼痛治療の患者様が多いのも特徴です。

 北京の気候は、温湿帯半湿潤大陸性季節風気候に属しています。冬は朝夕でマイナス10度を下回り、夏は40度近い日が続き、「夏は酷暑で冬は極寒」です。しかし、気候よりも注目したいのが、空気汚染と交通事故です。数年前に比べたらとても良くなりましたが、まだまだ建設等の要因で空気汚染がある為、北京の中医科では呼吸器系やアレルギーで来院される患者様がとても多いです。東南アジアにいた頃は何もなかったのに、北京に来てから咳が止まらないという患者様もいらっしゃいます。また、外国人の方で北京の交通事情に慣れず、事故にあってしまい、その後のトラウマ、神経痛等で通院される方が多いのも特徴です。

■最後に

 私は大学を卒業してすぐに働き始めたので医師免許をとりませんでした。私のように中国の中医薬大学を卒業後、医師としてではなくとも違う形で医療に携わっていく道もあります。勿論、医師になるのが夢であれば、何年かかっても、どんな道を通ることになっても、諦めずに夢に向かって前進していくべきだと思います。

 現職のラッフルズメディカルグループは今後、アジアを中心に展開、拡大を続けていく予定で、益々グローバルに働ける環境になってきています。この先、世界中でグローバリゼーションが進んで、医師も国を問わずに世界を飛び回る時代が近づいています。

 世界のどこかで皆様にお会いできることをとても楽しみにしています!


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